菊地修弁護士の労働事件レポート 「これが本当に日本なのか?深刻な労働実態を告発する!」(その1)


私たち一番町法律事務所では日頃から多くの労働事件を扱っています。
最近事件を扱っていて思うのは、日本の労働現場は「本当にひどい」ということです。
これから5回にわたって我が国の労働実態についてお話しさせて頂きます。

【退職を認めない会社】
 A社(外食業)の労働者が、あまりにヒドイ労働実態に嫌気がさして退職届を提出しました。ところが、A社は「まだ話し合いが十分ではない」などと言って退職届の受理を拒否し、退職手続(離職票の発行や年金、健康保険の手続等)をしようとしません。
労働者は企業の奴隷ではありません。労働者には退職の自由があります。民法は、労働者は「いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と規定しています(第627条第1項)。この規定は、労働者に関しては強行規定(合意による潜脱を許さない規定)と言われています。したがって、A社のこの対応は完全に違法であり、それ自体損害賠償の対象になります。

 B社(塾)の労働者(講師)は、採用時の契約は「業務委託契約」でした。委託料は月わずか10万円です。これで毎日午後1時から午前1時頃まで12時間働かされました。休憩はなく、夕食は教室から教室に移動するときにコンビニのおにぎりなどで済ませていました。
「業務委託」(つまり委任契約)ですから、当然残業代は支払われません。なぜなら、一般に委任契約において受任者は、業務時間、業務場所、業務内容等について広範な裁量権があるとされているからです。つまり、委任の趣旨に従った仕事をすればよく、委任者から業務時間、場所、内容等に指図を受けず、「今日は気分が乗らないから明日仕事をする」ということが許されます。
ところが、B社の講師にはこのような広範な裁量権はなく、労働時間、労働場所、労働内容について自分で決めることはあり得ませんでした。
つまり、「業務委託契約」は労働実態とは異なる全くの脱法です。月10万円を基礎賃金として時間当たり賃金を計算すると446円にしかなりません。これは宮城県の最低賃金時給696円(平成25年度)を大きく下回るものであり、完全な最賃法違反です。
この労働者(まだ20代)は精神的におかしくなり、会社に辞めたいと申し出たところ、会社は夜中に労働者の自宅に職員2名を派遣し「今辞められると困る。損害賠償請求する。」と脅しました。
もちろん、労働者には退職の自由がありますから、損害賠償請求は認められません。

「自由・民主主義国家」の日本で未だにこのようなやり方がまかり通っているとは大きな驚きです。マルクスの資本論(1867年・江戸時代末期)の世界、「蟹工船」(昭和初期)や「ああ野麦峠」(明治~大正時代)の時代とそんなに変わらないというのが私の実感です。でもこれが日本の労働実態なのです。


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