菊地修弁護士の労働事件レポート(その2)~「異常な長時間労働による健康破壊の実態」~


労働基準法第32条は「1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならない」と定めています。しかし、実際には異常な長時間労働が横行しています。





【過労死デッドライン】
 皆さんは「過労死デッドライン」という言葉を知っていますか?「これ以上残業すると過労死その他健康障害のリスクが高まるライン」のことで、月80時間とされています。1ヵ月の労働日を20日(週休2日)とすると、1日4時間の残業です。
 しかし、私たちが担当している事件の多くが、「デッドライン」を軽く超えています。その結果、メンタル面に障害がおこり、高血圧、糖尿病等内科の病気を発症し、最悪、くも膜下出血、脳出血、心筋梗塞等で死に至ります。過労自殺も増大しています。

【Aさん:長距離トラック運転手のケース】
 長距離運転手の場合、厚労省は、1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、延長しても16時間が限度、また、1週間で15時間を超える回数は2回が限度と規制しています。
 Aさんの場合は、連日1日13時間以上労働させられ、16時間労働も頻繁にあり、1週間における15時間を超える労働の回数が3回以上あることも珍しくありませんでした。
 このような長時間労働の結果、Aさんはめまい、ふらふら感、吐き気、耳鳴り、頭痛、右目視力低下が出現し、病院で診察を受けたところ糖尿病を発症し、そのために右目の視力が悪化したことが判明しました。Aさんはもともと軽い糖尿病がありましたが、眠気覚ましのために一日何本も缶コーヒーを飲んだのが原因で一気に糖尿病が悪化したのです。過度のストレスも糖尿病悪化の原因でした。
 ボロボロになったAさんは生命の危険を感じて会社退職を余儀なくされました。
 Aさんは現在会社を相手に残業代と慰謝料を請求して裁判を闘っています。

【Bさん:弁当屋の店長のケース】
 Bさんは、ある弁当屋に就職して約半年で店長を任されました。店長の労働時間は深夜0時からその日の午後5時、長いときで午後8時というすさまじいものでした。一日17時間~20時間労働で、その間休憩をとることはできませんでした。
 Bさんは店長になって3~4ヶ月でメンタルの不調を訴え診療内科を受診。「神経性障害」と診断されました。そのうち店に出勤すると動悸がし、また情緒不安定になってパートさんに八つ当たり、怒鳴る等の行動に出るようになりました。その後症状はさらに悪化し、ついに店に出勤すること自体が恐怖になったため、Bさんは店長になって半年後に休職し、間もなく弁当屋を退職しました。Bさんは、会社相手に残業代の支払と逸失利益(収入減)の賠償を求める裁判を起こしました。

 AさんBさんの事例は決して特殊な例ではなく、日本中でごく普通に起こっている氷山の一角にすぎません。


【安全配慮義務に違反】
 労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しています。これを使用者の労働者に対する「安全配慮義務」と言います。
 労働時間との関係では、
①加重・長時間労働の回避義務(業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないようにすべき義務)
②労働者の健康状態への配慮義務(労働者が健康を害しているか害する恐れがある場合は、職務から離脱させて休養を取らせる、他の軽易な作業に転換させる等の義務)が課せられています。
 AさんBさんの会社はこの安全配慮義務に違反して労働者を働かせていることになります。したがって、Aさんたちは会社に対して損害(精神的被害による収入減や慰謝料)の賠償を請求することができます。

参考:過労死等防止対策推進法の骨子(2014年11月1日施行)


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