介護事故で勝利的和解成立


 先日仙台地裁で、介護施設利用者の死亡事故の案件で勝利的和解が成立しました。
 事案は、89歳のAさん(男性)がB老健施設に入所したところ、Aさんは総義歯のために食事は固形物が食べられず、Aさんも娘のaさんもうどんの提供を希望していたのに、B施設は普通食ばかり提供し続けました。その結果Aさんは食事を摂取することができず、体重が急激に減少し、栄養状態の指標であるアルブミン値もどんどん下がっていき、ついには飢餓状態(低アルブミン血症)にまで陥りました。この間B施設は何もせず放置状態でした(途中から昼食だけうどんにしましたが)。また、B施設の嘱託医がB施設に他病院受診を勧めたにもかかわらず、B施設はこれも放置しました。そして、Aさんが生命の危機に陥って初めて他病院に入院させましたが、時すでに遅く入院後約1ヶ月でAさんは亡くなりました。
 そこでAさんの娘のaさんは、施設及び病院のカルテを入手したうえで、弁護士を依頼してB施設を相手取ってまず民事調停を申し立てましたが、B施設側は見舞金(涙金)しか払わないという態度だったため調停は不調に終わりました。そこでaさんは、B施設を被告にして仙台地裁に損害賠償請求訴訟を提起しました。この訴訟では裁判所の知見を補充するために専門医が選任され、この専門医からaさん側の主張を全面的に裏付ける意見書を提出いただき、これを前提に裁判所からaさんの勝利的和解案が出され、結局B施設側もこれに応じ、提訴から1年半で和解が成立しました。決して諦めなかった(当初施設側から門前払いをくらい、弁護士も何人か交替しています)aさんが勝ち取った勝利です。
 この事件の背景には、B施設側の画一的対応、慢性的な人員不足があると思います。B施設は、昼食で出るうどんに副菜を乗せてほしい要望したaさんに対し、「今のうどんが気に入らなければ普通の硬さのみんなと同じごはんを出すが、それでもいいか」、「施設では100人分もの食事を作っている。いちいち細かいところまで手が回らない」と言い放ちました。しかし、厚労省の介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準19条1項によると、「入所者の食事は、栄養並びに入所者の身体の状況、病状及び嗜好を考慮したものとするとともに、適切な時間に行われなければならない」とされ、介護老人保健施設であるB施設には、入居者の身体の状況、病状に応じた適切な栄養管理を行う義務があります。Aさんは、総義歯であったため固いものを咀嚼することができず、B施設に入所する前から麺類しか摂取することができない状態でした。仮にB施設が、Aさんが総義歯であることを知らなかったとしても、Aさんの入所前や入所時に、aさんがB施設の職員や担当栄養士に対し、Aさんが麺類しか食べることができないことを伝え注意喚起していたため、B施設は、Aさんの行動に注意をすれば、Aさんが総義歯であったため固いものを咀嚼することができないことは容易に予見できたはずです。しかるにB施設はAさんの実際の食事の様子や介助方法、体調などを観察し、食形態の工夫、食事回数や時間の調整等、個々人に応じた適切な栄養ケア計画を作成、栄養ケアを実施する義務があるのにこれを怠ったのでした。
 転院義務違反についても、上記基準16条1項は、介護老人保健施設の医師は、入所者の病状からみて当該介護老人保健施設において自ら必要な医療を提供することが困難であると認めたときは、協力病院その他適当な病院若しくは診療所への入院のための措置を講じ、又は他の医師の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならないと規定しており、B施設がとった対応はこれに明らかに違反しております。
 おそらくこのような介護事故はどの介護施設でも日常茶飯事的に起こっているものと思われます。介護事故をなくすには、介護職員の慢性的人手不足の解消、職員の劣悪な労働条件の改善が必要不可欠です(菊地)。


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