仙台地裁:名取・閖上(ゆりあげ)事件について(その2)


名取・閖上事件へのご関心・ご支援に感謝いたします。
今回は、原告の訴状のポイントをご紹介します。
11月10日の第1回裁判で、原告弁護団の宇部雄介弁護士(仙台中央法律事務所)が、法廷で話したものです。
                                       (小野寺・北見)

———————————————————————————-

第1 本件訴訟の概要
1 本件は、東日本大震災より発生した大津波によって子、両親らを失った原告らが、被告である名取市の責任を追及する損害賠償請求事件です。

2 平成23年3月11日午後2時46分、東日本大地震が発生し、これによる大津波が発生しました。
大津波は閖上海岸に午後3時50分前に到達し、その後約10分間で閖上・下増田地区は完全に浸水しました。そして閖上地区では701名が犠牲となりました。これは名取市全体の犠牲者の約8割を占めるものです。
その閖上地区の犠牲者の中に、原告らの子や両親らが含まれています。
この犠牲は、防災行政無線の故障、そして震災時の被告の対応の不備を原因とする、いわば人災によるものです。本件訴訟は、これらの点についての被告の法的責任を追及するものです。

第2 被告の責任
1 震災発生後の午後2時54分ころ、被告は、報道により大津波警報発令・襲来の情報を入手しました。そこで、災害対策本部長である市長は、同時刻ころ、防災安全課係長に指示して、防災無線室から、名取市閖上及び下増田の全域に対して、津波避難指示放送を行いました。
しかし、防災行政無線が震災により故障したため、上記津波避難指示は、屋外拡声子局及び戸別受信機でまったく聞き取ることができませんでした。
被告は、その後も同じ内容の避難指示の放送を繰り返しましたが、この放送も外でまったく聞こえませんでした。防災行政無線は、緊急時の基幹的な連絡手段とされ、まさに地域の生命線であったのにもかかわらず、震災時にはまったく用をなさなかったのです。
この防災行政無線は、国家賠償法2条1項にいう「公の営造物」に該当します。また、同法2条1項にいう「設置又は管理の瑕疵」とは、通常有すべき安全性を欠いていることをいいますが、防災行政無線は、災害の際にこそ故障することなく有効に稼働すべき性能を有すべきものであったのに、震災によって故障してしまい、その役割を果たさなかったものであり、明らかに通常有すべき安全性を欠いていました。
その結果、原告らの子らは、安全な場所に避難することができずに津波に巻き込まれ、死亡したのです。
したがって、被告は、国家賠償法2条1項に基づき責任を負うものであります。

2 次に、防災行政無線が戸外に放送されているかについて、被告は、いずれの避難指示放送についても、まったく確認していませんでした。
かつ、被告には、上記防災行政無線による津波避難指示以外にも、①広報車による伝達、②公民館経由による伝達、③職員派遣といった、大津波が襲来することを住民に知らせ得る手段・方法を有していました。ところが、大津波警報が発令されていたにもかかわらず、被告は、これらの措置をまったくとりませんでした。
これらは、住民の生命を守る使命を有する地方自治体にとって、きわめて重大な義務違反であります。
原告らの子、両親らは、大津波に巻き込まれ、命を失いました。
もし防災行政無線が正常に機能していれば、あるいは広報車等による避難呼びかけが迅速かつ的確になされていれば、彼らは適時に避難し、命を失うことはありませんでした。
この点についての被告の過失は明らかであり、被告は、国家賠償法1条1項に基づいて責任を負うものであります。

第3 本件訴訟の意義
原告らは、訴訟上の請求としては、被告に対し、大津波で子、両親らを失ったことについて、損害賠償請金の支払いを求めます。しかし、本件訴訟の意義はそれにとどまるものではありません。
名取市閖上地区で大きな被害が発生した原因と背景を明らかにするために、被告には東日本大震災第三者検証委員会が設置され、大震災当時の被告の対応については、同委員会から、数々の問題点が指摘されました。一方で、被告の当時の対応については、市長らが説明責任を果たさないために、未解明な点が多く存在します。

本件訴訟においては、被告がどのような対応をとったのかを明らかにし、なぜ、原告らの子、両親らが命を失わなければならなかったのか、その真相を解明し、被告の責任の所在を明らかにする必要があります。そうしてこそ、原告らの子や両親、ひいては多くの犠牲になられた方々の思いを生かすことになると、確信するものであります。
                                              以上


お問い合わせはこちらから

@ichiban_lo からのツイート