常磐山元自動車学校事件 提訴しました


 
 本年10月14日、常磐山元自動車学校(以下、「学校」と省略)の死亡した教習生25名の遺族が、学校、役員・校長(死亡の場合は相続人)、教官1名及び学校加入の保険会社を被告に、総額約金19億円の損害賠償請求訴訟を仙台地裁に提訴しました。
 弁護団は、仙台弁護士会所属の弁護士10名です。

 本年3月11日午後2時46分、被害教習生23名が学校の構内で教習中または教習待ちのために待機していたところ、東日本大震災が発生しました。このとき学校の社長は名取方面にいて不在でした。
 午後2時49分頃山元町で大津波警報が発令され、直ちに町、消防、警察の広報車及び防災行政無線によって避難指示の伝令がなされました。 上記各広報車は学校前の道路も走行し学校側は当然伝令の事実を認識していました。
 また、学校では地震後1分間停電しましたが、すぐに電源は復活し、その後午後3時20分に停電するまで通電していました。
 その間、学校にある2つのテレビが大津波警報を伝える特別番組を放映しており、役員、校長、教官らはそのテレビを視ていました。
 このように、学校側は大津波来襲の危険を十分に認識いたにもかかわらず、授業を再開させることだけを考え、その間教習生らを校庭にあるバスに適当に振り分け、バスに乗っての待機を指示しました。
 待機している間、バスから降りようとする生徒がいると、教官から「バスから勝手に降りるな」と叱られており、教習生らは教官らの指示に従うしかありませんでした。
 このときある教官は校長に対し避難を進言しましたが、校長は「大丈夫」と言って取り合いませんでした。
 学校側は午後3時20分頃に停電になってからようやく授業再開を断念し、教習生らを帰宅させるために、行先別に教習生らを送迎車に割り振り、午後3時35分から45分頃にかけて順次送迎車を出しました。
 この段階においても学校側に危機感・緊迫感はなく、教習生らを避難させることは全く考えておらず、単に通常通りの送迎をしたものです。
 発車した送迎車のうち4台が津波に遭遇し、乗車していた教習生ら23名が死亡しました。
 教習生2名は、亘理町で路上教習中(津波被害がなかった地域)に地震に遭い、教官は教習を中断して、教習生2名をわざわざ海に近い学校敷地に連れ戻しました。
 この2名は送迎車に割り振られることはありませんでした。この教官は他の教習生を乗せた送迎車を運転して南に向かい津波に遭遇せずに助かっています。
 この教官は、送迎車を運転中上記2名が徒歩で学校から南へ移動しているところを目撃したものの、とくに声をかけることはありませんでした。その直後、上記2名は津波に遭遇して死亡しました。

 請求の法律構成は、学校の責任は債務不履行責任(契約にもとづく安全配慮義務違反)、役員は会社法上の取締役の責任、校長・教官1名については不法行為責任です。
 保険会社に対しては、学校が保険会社に対して有している保険金請求権を原告が代位行使する債権者代位権の法律構成をとっています。

 上記事実関係の下では、学校側に大津波襲来について十分予見可能性があり、かつ大津波警報発令から津波襲来まで約1時間あったことから十分結果回避可能性もあり、学校側の過失は否定できないと考えております。
 そもそも学校には災害対策マニュアルも、津波に対する日頃の備えも何もありませんでした。
 また、学校は山元町の沿岸部に位置し、交通の便は悪く教習生の多くは学校の送迎バスで通学していました。
 そして、教習生と学校の教習契約の性質は、教習生が学校の指揮監督下に入るというものです。
 しかも、被害教習生らはすべて18歳、19歳の未成年者であり、学校の指示に従わざるをえない若者たちでした。つまり、「自分たちの判断で逃げられた」とは到底言えない状況でした。
 本件は津波による被害ですが、上記事実関係からすれば「人災」であることは明らかです。学校側は、教習生の人命よりも授業再開=利益を優先させたのです。許されることではありません。

 本件は本当に痛ましい事件です。
 亡くなられた教習生たちは皆18、19歳の若さであり、将来に夢や希望を持ちながら、この世に未練を残しながら、亡くなってしまいました。どんなにか悔しかったでしょう。
 また、突然最愛の子どもさんを失ったご遺族の皆様の胸中を思うと、察するに余りあるものがあります。

 原告・弁護団は、本訴訟を通じ、尊い教習生の生命に対する責任の所在を明確にすると同時に、津波災害における事業者、学校等はその指揮監督下にある者に対し安全を守る義務があることを明らかにし、二度と同じ悲劇を繰り返さないことを目的として、本訴訟を提起しました。

 今後何十年かの間に必ず東海、東南海、南海地震が起きると言われています。いや、日本中いつでもどこでも大地震が起こる危険があります。本件事件の教訓を明らかにし、これを来たるべき大地震・津波被害に生かすことが必要です。本件訴訟はその意味でも全国的な意義を有するものと考えています。

 皆様、応援をよろしくお願いいたします(菊地)。


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