2007年6月、日本共産党が陸上自衛隊情報保全隊の内部文書(166頁)を公表しました。それには、2004年のイラクへの自衛隊派兵に反対する全国の集会やデモ、市民の平和・護憲運動を自衛隊が「反自衛隊活動」として監視し、個人が特定できる写真撮影や実名・職業などの個人情報の追跡調査までしていたことが赤裸々に記載されていました。監視対象は、年金改悪・消費税増税反対運動、写真展や小林多喜二展などにまで及び、監視されている人も国会議員・地方議会議員、新聞記者、学者、著名な映画監督など広範囲に及んでいました。
この自衛隊の国民監視は違憲・違法で許されないと提訴したのが、この裁判です。原告は東北6県の107名の住民です。
一審の仙台地裁は、2012年3月、実名が記載されていた5名の原告に対する勝訴判決を言い渡し、双方が控訴し、これまで仙台高裁で審理されていました。控訴審では元情報保全隊長と情報保全室長に対する証人尋問を実現することができました。
仙台高裁は、本年2月2日、判決を言い渡しました。私たちは「勝訴」と「不当判決」の2つの旗を出しました。
この「勝訴」は画期的です。高等裁判所でも、自衛隊が全国で国民を詳細に監視している事実を明確に認定しました。自衛隊の国民監視は動かぬ事実となったのです。そして、1名の原告について、本来知り得ない実名や職業を密かに追跡調査していたことが、憲法で保障されたプライバシー権を侵害する違法な行為であるとして、国家賠償(慰謝料10万円の支払)を命じたのです。最大の国家権力である自衛隊、その中の「現代の憲兵」とされる情報保全隊による人権侵害を正面から認めた初めての判決です。しかも、国はこの敗訴判決の上告を断念せざるを得ませんでした。これは自衛隊自らが違法行為を認めたことを意味します。
さらに、判決は、内部文書には「医療費負担増の凍結・見直し」「春闘」「年金改悪反対」等の街宣活動や「小林多喜二展」等の記載があるが、これらの情報収集の「必要性を認め難い」として、自衛隊の監視活動に歯止めをかけました。
私たちは、この勝訴判決を力に、国に対して違法な監視行為に対する謝罪、監視行為の実態の説明、違法に収集された個人情報の抹消、違法な監視活動の中止を強く求めてゆきます。安倍政権の下での戦争法制をくい止める闘いにとっても、大きな武器を獲得した思いです。
しかし、この判決には人権保障の観点からみて重大な欠陥もあります。暴力集団の駐屯地などに対する飛翔物の発射等を理由に一般市民の平穏な表現活動に関する情報収集を容認していることは、論理の飛躍があり、また、民主主義や表現の自由の重要性の理解ができていない杜撰な判断です。また、一審判決が認めた自己情報コントロール権に対しては「法的保護に値する権利としての成熟性を認め難い」と切り捨てるなど、人権保障の発展に逆行する判断もしています。そもそも、国民を監視しているのが、自衛隊という最大の権力機関であるという本質的問題に関する基礎的な認識すら欠落しています。これらの欠陥によって、仙台地裁で勝利した4名が敗訴になったのであり、高裁判決の誤りは最高裁で正されなければなりません。すでに75名の原告が上告手続きをしており、闘いの場は最高裁に移ります。
仙台高裁判決の「長所」を活かし「短所」を克服するために引き続き闘いますので、今後も皆様のご支援をお願いいたします。
2016年2月26日
自衛隊の国民監視差止訴訟 原告弁護団事務局長
弁護士 小野寺 義象(おのでら よしかた)