東日本大震災第三者検証委員会の基礎資料が、減災・復興支援機構の理事長木村拓郎氏によって廃棄された問題について、名取市を被告として住民訴訟を提起しておりましたが、2019年3月27日に、解決をしましたので、訴えの取下げを行いました。その際、以下のとおり、原告団・弁護団連名の声明を発表しましたのでお読みください。なお、この事件は、当事務所からは、小野寺義象、長沼拓、鈴木優の3名の弁護士が代理人として活動しました。
声 明
1 名取市東日本大震災第三者検証委員会・元資料廃棄問題住民訴訟に関して,本日,仙台高等裁判所において,被控訴人名取市長は控訴人に対して,「今回の事案を踏まえ,検証の過程で収集した資料の重みやその保存,保管方法について市民の間に様々な意見があることを真摯に受け止め,今後の市政運営に活かすこと及び今後,名取市として第三者検証委員会による検証を行う場合には,市民に広く理解されるよう,検証の着手に先立ち,資料の保管・取り扱いについて,市民の意見・要望も踏まえ検証の目的や資料の重要性の程度についても十分に検討したうえで,実施要領や委託契約書等の中で明確化するよう努める」ことを約束した。
控訴人は,これによって,本件訴訟の目的を実質的に達成することができたと判断して,本日,訴えを取り下げた。
2 東日本大震災による名取市閖上地区の犠牲者は700名を超えた。なぜ,閖上地区でこのような大きな被害が発生したのか,名取市はその原因究明に真摯に取り組もうとしなかった。
このため,住民約4000人が原因究明を求める請願を名取市議会に提出し,全会一致で,第三者検証委員会が設置されることになった。
第三者検証委員会は,2014年4月,最終報告書を作成したが,最終報告書は完全なものではなく,将来の再検証が予定されていた。
ところが,第三者検証委員会の調査過程で収集された本件基礎資料を理事長の独断で一方的に廃棄するという事態が発生した。しかも,廃棄したとされる「2015年5月頃」は,名取市の責任を問う国家賠償請求訴訟が進行し,本件基礎資料に関心が集中している時期であった。
報告書の前提となる本件基礎資料は,過去の震災の真相を伝えた再現不能な貴重な記録であり,また,本件基礎資料は将来に向けた防災・減災にとっても貴重な名取市民の財産である。このような代替性のない重要な本件基礎資料の管理・保存を契約の一方当事者の,しかも,代表者のみの判断で廃棄することを,本件契約は認めていたのか。契約の他方当事者や検証委員会委員の了解も得ず,相談も連絡もすることなく廃棄することは債務不履行ないし不法行為に該当しないのか。原告はこのことを問題として本件訴訟を提起した。
3 一審の仙台地方裁判所は,2018年5月16日,本件の意義を全く理解せず,極めて形式的かつ不十分な検討により,原告敗訴の不当判決を言い渡した。
控訴審において,仙台高等裁判所は,本件訴訟の意義を正面から受け止めて双方に働きかけ,本日,名取市長が上記約束をすることとなった。私たちは,本件の解決に尽力された仙台高等裁判所に対し敬意を表するとともに,市民の訴えを真摯に受け止めた名取市長の今回の対応を評価する。
原告も引き続き今回の約束の実現に向けた取り組みを行うものである。
2019年3月27日
名取市東日本大震災第三者検証委員会・元資料廃棄問題住民訴訟 原告団 弁護団